雨の音が好き

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「新しい心配」が、キャズムを超えた時に起る事 - 毎月新聞 (佐藤雅彦)

毎月新聞
佐藤 雅彦 (著)



 本書は、ピタゴラスイッチや、だんご三兄弟、またゲームでは「IQ」など、多方面で活躍する佐藤雅彦氏が、毎日新聞で連載していたコラムをまとめた書籍です。テーマ毎の文章量はそれほど多くありませんので、とてもサクサクと読んでいける本です。単行本化された機会に購入しました。

 普段、自分の周りにも起きていることで、実は「アレ?」と思ったり、「ん?コレはどうなんだろ…」と感じる物事は多々あります。しかし、取るに足らない事としてあまり深くそれについて考える事はしません。

 本書では、そういった日常で体験する些細な物事をテーマとして多く取り上げています。ですので、「あー、確かに自分も同じように感じてた!」といった共感に近いものを感じます。そして、それをうまく言語化して表現される事の独特な快感が味わえます。「あー、オレの言いたかった事はそういう事なんだ!」的な。

 例えば、ケータイ電話についての心配事で共感した例を紹介します。これは氏が、とあるコンサートに出向いたときの話。来賓として皇太子ご夫婦もご出席するようなコンサートで、氏が開演前に感じた事を綴ったものです。(これは1999年に書かれた文章です。)

この時である、僕に今まで起きたことのない心配が、急に芽生えてきたのは。
「もし、ウィーン・フィルの演奏中に誰かの携帯電話がなったらどうしよう……」
 これは、今まで映画館や講演会などで携帯が鳴った時の「迷惑だなあ」と思う気持ちと全く違うものであった。わざわざヨーロッパから来てくれたムーティウィーン・フィルや、10年に一度聴けるかどうかという機会を与えられた観客に対して、誰かの携帯電話がなったらもう決定的である。小さな携帯電話のその音で、このコンサートは台無しになってしまう。
p.52-53

毎月新聞 (中公文庫)毎月新聞 (中公文庫)
(2009/09)
佐藤 雅彦

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「誰かの携帯電話が鳴ったらどうしよう……」
 もしそんな自体になっても、僕が心配する立場ではないのだが、ムーティに対してウィーン・フィルに対して、とても申し訳ない気持ちに勝手になっていたのだ。
p.53

 これは私も感じる事なのですが、なぜか全く自分に責任がないにも関わらず、なんとも心配してまう。妙なドキドキ感。旅行で日本に来た外国の方が、日本で暴行されて酷い目にあった時に、なぜか申し訳ない気持ちになるのと似ています。

僕はこの日、ずっと感じていた心配が、かつて感じたことのないものであることに気づき、これを「新しい心配」と名付けた。
p.55

社会問題とするには大げさすぎる個人レベルの「新しい心配」も実はどんどん急増しているのに違いないと、僕はコンサートの帰り路、深々と考えたのである。
p.55

 問題の本質に関わる部分は、新しいものではないかもしれません。例えばコンサート中に子供が騒ぐとか、一番前の席で臆すること無く居眠りをして、いびきまでかくとか。騒いだのは自分の子供でもないし、居眠りしたのも自分ではありませんが、何故か申し訳ない気持ちになります。

 さて、この話を元にして私が感じた事は、「新しい心配」は『一定以上に達した時(社会に普及した時)』、社会問題になるという点です。当たり前とも言える話なのですが、個人レベルの問題は、その延長線上で社会レベルにまで達するという事です。(ケータイ電話の着信音や、電車内での使用のマナーは、社会問題化しました。)

 今流行の言葉で言うなら、「キャズムを超えた」と言われるようなサービスが抱える問題は、今までは個人的な問題ですんでいた事や違和感も、社会問題化するかもしれません。GREEやモバゲーに代表される「これ無料って言ってるけどやばいよなー」と、多くの人が心の中でひっそりと思っていた事も社会問題化してきました。

 個人レベルだと思っていた問題でも、普及すると社会問題になる。社会というものが個人の集合であることを考えると、言葉にすること自体バカらしく思えてくる当然の理屈なのですが、心に刻んでおきたい教訓です。

 これは、逆に言うならキャズムを超えるサービスをしたいのであれば、まだ個人的な問題で納まっている間に問題に気づき、対策を考えるなどの見極めが必要であるという事です。この辺りの勘所というか、鋭さというのは、自分が感じた違和感や問題と素直に向き合えるというが、一つのポイントになってくるように感じます。これは、「哲学の基本とはなにか?」の記事中で紹介した、以下の言葉に通じるものがあります。

自分の「からだ」から湧き出た言葉を尊重して「ほんとうのこと」正確に語りづづけること。
p.10

「哲学実技」のすすめ―そして誰もいなくなった・・・ (角川oneテーマ21 (C-1))「哲学実技」のすすめ―そして誰もいなくなった・・・ (角川oneテーマ21 (C-1))
(2000/12/01)
中島 義道

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