村上春樹のエッセー本、「村上朝日堂はいほー! 」の中の、題「腔犯まくわうり」から小ネタを。書籍自体は、1983年から5年間に渡って雑誌「ハイファッション」に連載されたものを書籍化したもので、バブルに差し掛かろうかといったタイミングでの文章だ。
話の流れとして、「最近の邦題はそれだけみても内容がよくわからない。そのままカタカナにしただけのものが多い」といったもので、例えば、「スター・クレイジー」という映画は、原題は 「Stir Crazy」 。んで、Stir は頭のイカれちゃったみたいな意味のスラング。昔の人ならいろいろ知恵を絞って「底抜け刑務所騒動」とか「刑務所パラダイス」とか(あくまで例えばだが)にするかもしれない。そうすれば、なんか喜劇で刑務所ものなんだなーってのがわかるでしょ。それがスター・クレイジーって、普通「狂った」「星」、SF??ってなるよ。みたいな文脈の中での一文。
最近わりに気に入ってりるのがレイ・パーカー・ジュニアの“I Still Can't Get Over Loving You”という歌で、邦題は「アイ・STILL 愛してる」となっている。この邦題のつけ方は実にアホらしくて、品位に欠けるけど、覚えやすくて悪くないと思う。題の大意もちゃんとあっている。
p.30
文字づらだけ見てピンとこない人も、音読すると「あぁ…なるほど…」となるだろう。こういったものを見ていつも考えるのは、思いつくまでのセンスはまぁー正直わかるとして(ぶっちゃけオヤジギャグに近い)、よくそこから「ではこのタイトルで行きましょう」って話になったなぁという事。どういったディシジョンメイクによってこのような結果になったのか。いったいどんな現場だったのだろうといろいろ考えてしまう。
偉い人が、「思いついた!アイ・STILL 愛してるぅ〜なんてどう?ガハハ(笑)」とか言い出して、周りは「ん・・あ、ああぁ・・・いいっすね!これでいきましょう!さすが〜」みたいな、誰も反対できずに決まってしまうのだろうか。それとも、誰かが真面目に考えてみんなが「それだ!それしかない!それでなければならない!」とか言って賛同して決まっていくのだろうか。
いずれにせよ、最近はそんなノリを感じさせてくれる邦題はなかなかお見かけしない。石橋を叩いて付けられたような邦題ばかりだ。そういう事をやれるだけの余裕がないんだろうなというのは、なんとなく感じる。
ちなみに、ここ数年の中でタイトルを見て興味を惹かれて見ちゃった映画は「バス男」。原題はNapoleon Dynamite。当時流行っていた電車男に乗っかろうと付けられたこの邦題。正直、どこがバス男やねん!というツッコミを入れたくなるような内容なのだが、映画自体はとても好きになった。バス男じゃなければ多分見ていなかったので、こういう出会もあるのだなと感じる。そのまんま「ナポレオン・ダイナマイト」という邦題にしなかったのは、なかなかの手腕だったと思う(このタイトルにした理由もなんとなくわかる)。ていうか、ブルーレイ版も出ててるのね。
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